企業のバックヤードにも夢を!
ドリームマップを通じて、組織パフォーマンス向上を推進
企業のバックヤード業務は、社内がお客様。いつも同じ顔、いつも同じような仕事。大切な仕事であるものの、エンドユーザーが見えないこともあり、どうしても組織パフォーマンスが下がることがあると思います。
そんな、バックヤードの組織パフォーマンス向上を目的に、JT内のドリームマップ開催を推進された、大久保さんにお話をお伺いしました。
Q ドリームマップの実施背景を教えてください
~組織パフォーマンス向上が推進の目的~
私の部署は、R&D部門で、分析データ及びデータから得られる情報を出すことがミッションです。開発部門とは異なり、製品化に直接関わるわけではないため、ともすると要望のあった分析データor情報を出すといった受身な姿勢になりがちです。
その中で組織内において40、50代が2/3を占めていることが、ドリームマップを開催した大きな理由です。私としては、そういった世代の人たちの中で、日常夢を考えることが少なくなった方々にも、人生の夢を思い出してもらい、夢を実現する一部として仕事を捉えて仕事に対するモチベーションを向上させてもらいたいと考えました。
そして、それは結果として組織のパフォーマンス向上にもつながると考えていました。私は「組織のパフォーマンス向上=個々人のモチベーション向上+コミュニケーション向上」と考えており、その中でも個々人のモチベーション向上はどの組織においても共通する課題だと捉えていました。
Q 大久保さん自身はなぜそういった課題意識を持つようになったのですか?
~東日本大震災で変わらなければいけないと思った~
最大のきっかけは東日本大震災3.11です 。震災以前は私自身、「会社は揺るがず、このまま行けば定年が迎えられる」そんなように考える瞬間がありました。震災が起こったとき、たばこの原材料を調達することができなかったり、工場が稼働できなくなったことから、製品供給を一時停止せざるを得なくなり、なんとか製造、販売を回復させようと全社が必死になりました。品質分析部でも数多くの緊急分析を行いました。そんな必死の取り組みの中で私は「どんなに安定している会社もつぶれるときはつぶれる」と改めて感じたんです。
更に、JTという会社はグローバル化が進んでおり、今ではたばこ事業の国内/海外売上比率が10年前と逆転してきています。このままでは国内事業の仕事というのはなくなる、品質分析部も受身な姿勢でいると組織全体がなくなると思うようになりました。
Q 組織パフォーマンス向上の施策(以下、施策)は職場で受け入れられたのですか?
~一体感向上が組織パフォーマンスを向上させる~
本取組自体は、現部長がもともと発案されたものです。
部長は組織の一体感や従業員同士がつながっている意識が、生産のパフォーマンスに大きく影響していることを常に念頭に置かれており、以前工場長だった時代に一体感向上の取り組みを図っておられました。
2010年、部長が現在の組織に異動したとき、社員満足度調査の結果は7つあるR&D部門の中で最下位。強く問題意識を持たれたのだと思います。そして、今までの経験から、「(1)チーム間の連携をするプロジェクトを推進する(連携PJ)」、「(2)年1回 通常業務と全く異なるチームビルディング活動」といった2つの取り組みを実施していました。ドリームマップは(2)の2014年度取組として実施しました。
Q 他のツールではなくなぜドリームマップを選んだのですか?
~従業員一人一人の日常につなげたい~
2014年度取組の検討当初は、様々な意見が出ました。
「(1)の連携PJの共有会」、「以前に依頼したことのある研修会社」など。ただ、本取り組みは既に3年間実施しており、マンネリ感も出てきていました。
また、自分自身の体験として研修で得られたものは、日常で使われないと忘れられていくとの実感がありました。
このため、従来の取り組みとは違い、ワークショップという非日常から日常につなげられるようなものがいいな、とうっすらと考えていました。
Q ワークショップの事前準備はいかがでしたか?
~いつもと違うため丁寧な説明が必要~
これは失敗。部内のメンバに全然伝わっていませんでした。私自身が作成したドリームマップを貼り付けたうえで周知文書を作成し、準備を依頼したものの、なぜ雑誌や写真をもって行かなければならないのか伝わっていませんでした。
伝わらなかった理由は様々あると思いますが、今まで受けたことのないワークショップでもあり、もう少し丁寧に説明をしてもよかったと思います。
Q ワークショップ本番はいかがでしたか?
~完成させることがゴールではない~
特に女性はかなり楽しそうに作っていた印象があります。一方、40、50代の男性は固まっている人もいました。それを察知したファシリテータが個別にアプローチをしたものの、出てきた言葉は、
「ない!」
何も出てこないようでした。
これは、大企業の多くが抱える重要なISSUEなのではないでしょうか? 日本の企業は、偉くなっている人達は元気で、実はそれ以外の人たちからエネルギーを吸い取って元気になっているような印象があります。結果、個々人の夢、意志、ビジョンといったものが出てこなくなっているようも考えています。今回は、そういう方にも何とか当日の時間内で仕上げてもらいました。今思い返すと、実はこれが「最大の失敗」だと感じています。
社員はある意味研修慣れをしており、研修のゴールが見えるとそのゴールにあわせたアウトプットを完成させようとします。今回のワークショップで大切にしたかったことは、「ワークショップという非日常から、日常につなげること」。そう考えると、『作れなかった』ままあえて終わらせたほうが気づきが大きかったかもしれない。そうすれば「なぜ、あの時夢が出てこなかったんだろうか? 自身は本当に何をしたいんだろうか?」という問いを持った日常につなげてもらえたかもしれない、と思っています。
Q 皆さんどんな夢を描かれたのですか? その後どのようなことが起こっていますか?
~様々な夢が描かれ、変化の兆しが見られる~
いくつかの方の夢とその後を紹介します。
○男性Aさん
・夢:「職場のみんながかっこよくなっている!」
・その後:家に持ち帰ってご自宅の仏壇のところにお供えしているとのこと。
奥さん、子どもからおもしろいじゃん!っと言ってもらえたり、自身で日々上書きをして、一番活用されているように見受けられます。
○女性社員Bさん
・夢:「(とある競技で)日本チャンピオンになる」
・その後:笑顔の挨拶メールが届くようになりました。
○定年が近いCさん
・夢:「毎日ラジオ体操をする!」
○若手社員Dさん
・その後:Dさんを交えたチームに、社内のコンプライアンス活動計画立案の依頼がありました。
コンプライアンスと言うと「リスク」が前に出てその対策を立案するのが常だと思うのですが、Dさんからの「リスクよりもどういう状態になっていたいの?」そんな問いかけから、依頼書の様式からはみ出すような提案が産まれました。
一方で、家で丸めて置いて置かれており、元の日常に戻ってしまっているケースもあるようです。
Q 当初目的は達成できましたか? 今後更に何をしていきますか?
~フォローアップも含めた複合的な打ち手を進めたい~
40、50代をターゲットとした当初目的の達成という視点については、不十分であったかもしれません。そういった世代が夢を持って、いきいきと働ける職場にするためにも、個人の生きがいや仕事人としての誇りをさらに活性化するような複合的なアクションをとっていきたいと思っています。その一つとして、若い方達からのアプローチも進めていきたいと思っています。
Q 最後に、職場に夢はこれから必要でしょうか? その理由は?
~個々人が夢を持ち、職場で応援しあうことが必要~
職場としての夢というよりも、個々人が夢を持つことが絶対に必要だと思います。未来をより優れた形にしていくためにも個人の夢が必要。個人の夢の一部が職場の中に入り込んでいていいと思います。それが、会社、職場の夢につながり、腑に落ちるビジョン、ミッションにつながると考えています。
今回のドリームマップを受けた方で、「子どもをイケメンにしたい」といった夢を描いた方がいました。その方は最近パフォーマンスが飛躍的に向上した実感があります。「子どもをイケメンにしたい」からこそ、PTA活動や家事がある中、限られた仕事の時間内で成果を出し、お金をしっかり稼ぐ。その稼いだお金で、子どもをイケメンにする。そんなことを考えられていると思います。
またドリームマップを通じて職場の身の回りの人たちとの関係も変わってきました。周りの人の仕事がどうしても終わらないようなときは、多少無理してでも業務を手伝う。その一方で、プライベートの活動で会社を休みたいということであれば、周りも休むことを応援するようになってきました。
個人が夢を描き、夢を共有することで、職場のパフォーマンスが上がったまさに一例だと思います。
ワークショップ実施概要
○参加者構成:
-社員、派遣社員が混在
-男女比は概ね半々
-40、50代が2/3を占める
○実施スタイル: 1日(6時間)
○ドリームマップ作成単位:個人